お侍様 小劇場 extra

   “おウチ遊びも色々あって” 〜寵猫抄より


西日本や九州地方が大変と言っておれば、
今宵は東京も場所によっては凄まじい雨となったそうで。
本当に今年の梅雨は、なかなかに長っ尻なことである。

 「にゃあにゃ。」

雨の日が続くと何が困るかって、
洗濯物は乾燥機があるし、
部屋の湿度が上がるのも、
本当はあんまり頼りたくははないけれど
何となればエアコンを稼動させればいい。

そんな瑣末なことよりも問題なのが、
当家の場合は……

 「久蔵、こっちで遊ぼうよ。」

お仕事も片付けてのさてと、
リビングの板の間へ座り込んだ秘書殿、
それは愛らしい、小さな背中へと呼びかければ。

 「みゃあにゃ。」

振り向きもしないでお返事だけが返って来るのへ、
あうう、つれないんだからと、
フローリングの床へぱたりと両の手をついてみたりし。
ねえねえ遊ぼうよぅ、
久蔵と遊びたいなぁ、遊んでくれないかなぁ。
ちょっぴり目尻の下がった
甘い印象のする目許をますますと下げて、
ねえねえとおねだりするのが七郎次の側というのは、
少なくとも勘兵衛にはこれまでに見たことのない風景だったので。

 「…何をしとるのだ。」

とうとう久蔵に反抗期でも来たのかと、
足音忍ばせ近寄りながら、そんなお声をかける御主だったのへ、

 「いやいや、これって新しいお遊びでして。」

素に返ってはつや消しなのでか、こそりとしたお声で返してから、
久蔵、遊ぼうよぉと繰り返せば、

 「…みゅうみゅ。」

フリフリと綿毛に覆われた小さな頭をゆすって見せてから、
くるり振り返って見せて、
七郎次のお膝までを、やっとのこと とたとたと駈けて来る。
ついでに気がついた、増えていた顔ぶれの勘兵衛へ、
いかにも楽しげに にゃあにゃと笑ってから。
小さな胸元がばちょを開いての、
それは大胆にも積極的に
七郎次おっ母様の懐ろへと飛び込んで見せたのは、

 「お昼間にやってたドラマの真似ですvv」
 「にゃうみぃvv」
 「おいおい。」

よくある話で、
恋人の不実を誤解しまくって話がこじれるメロドラマだったんですが、
ヒロインがやたらと“あなたなんて知らない”ってそっぽ向いてるのへ、
恋人が何とか宥めようとする姿が

 「妙に気に入ったらしいんですよ、久蔵ってば。」

呼んでもお返事しないなと、なんか変だなと気づいたのが一昨日で、
何回か呼べばやっと振り向き、
その際にどっかで見たぞという素振りをするので、
ああと気づいての始まった、昼メロごっこ。

 「……そういう不毛な遊びは即刻止めなさい。」
 「あ、やっぱり。」

あははと笑った七郎次のお膝から
見上げてきていた久蔵が、ふにゃっと小首を傾げれば、

 「お前も判ったな、久蔵。」
 「うーみゃ?」

かっくりこと小首を傾げたものの、
まま賢い子だから、勘兵衛の言いつけは守るに違いない。
今日はまだ降り出してはいないのだけれど、
お空はどんよりと曇っており。
庭先で遊びたいという仔猫様を引き止めての、
ごっこ遊びであったらしくて。
たいくちゅ・たいくちゅとふてる坊やへ、

 「じゃあ、今度はシャボン玉で遊ぼっか?」
 「みゃ?」

ふわふわ飛んでるの、えいってていって捕まえるの好きだろ?と
宙へ人差し指の先で丸を描いた七郎次だったのへ、
何なになぁに? 新しいあしょび?と、
期待にはやばやと目許を潤ませる仔猫様へ、
そちらもまた“はうぅ”と嬉しそうに目許細める女房殿なのが
……何とも罪がないったら。

 “……まあ、いっか。”

平和で何よりかと、
ホントだったら原稿の読み合わせを手伝って欲しかった島田せんせえ、
林田くんが来るのは午後だしと、
自分の側の都合を調整してでも、
可愛らしい家人らのお遊戯、シャボン玉篇も
見物する所存となったらしくって。


  くどいようだが、いやはや平和で何よりです。はいvv



   〜Fine〜  2010.07.05.


  *ふわふわと浮かぶ七色のシャボン玉を追いかける遊びも、
   久蔵ちゃんの大好きな、
   鬼ごっこ…というか、狩猟練習系のお遊びで。
   キュウゾウお兄ちゃんと競争したいなというのが最近の野望です。
   あちら様はもっと広いところで、
   タンポポの綿毛とか追ってる身だから、
   そう簡単には勝てないぞ?
(苦笑)

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